セカイの記録

pixivで投稿しているSSの裏話とか置くところ

CH.67 一対の望、生き続ける魂

どうもです。気づけばオンゲキも5周年になりました。そんな5周年に投稿した作品が

#24 星屑の魂 | オンゲキショートストーリーズ

です。セツナと拓真の物語の続きにして、救済の物語です。

 

自分は前半を投稿したあと、このようなツイートをしました。

セツナの話は、椿と梨緒のふたりとは違う世界線です。でも、この3人の境遇は似ているなと思いました。ただ違うのは、椿と梨緒は闇に堕ちなかったということ。何故だろうか、それを考え続けた。その答えを、今から書いていきます。

 

 

1.経緯と顛末

まずは、この6人の物語を振り返ります。どのように出会い、別れ、遺された者はどうなったのかを。

 

1-1.藍原椿と柚原佳乃子

友に贈る、希望の言葉 | 音撃【魂のセカイ】

椿は中学1年の時、佳乃子ことカノンに出会います。椿は当時、交通事故による精神的な傷を負っていた。元々友達も居ない椿にとって、彼女は心が落ち着く存在でした。傷を隠す為のマフラーも褒めてくれた。椿自身、彼女の前では笑顔を向けることもできたのです。

しかしカノンは病気で亡くなってしまいます。その時、椿はこう思ったんです。

生きる気力がない私は生きて、生きたいと願うカノンは死んだ。私はただ、この世界の理不尽さに……絶望していた。

初めての記憶に残る死を経験してしまった。変われるなら変わってやりたかった。『どうして、私は生きているの?』数ヶ月後に椿が祖母に対して言った台詞です。ふたつの絶望によって、椿は生きる意味を失っていた。今思うと相当重いですね、本当。

でも椿はそんな状態でも生き続け、やがて莉玖や梨緒と出会います。ふたりは友達になってくれた。そして椿はふたりに、隠していたマフラーの秘密を明かすのです。彼女にとってそれは、相当の覚悟だったでしょう。莉玖と梨緒はそれでも受け入れてくれた。友達だと言ってくれた。椿はその時、泣いていました。忘れてしまった涙を、流していたんです。

そしてマフラーを受け入れた今ならと、3年間封印していたカノンからの手紙を開くのです。『生きてほしい、そして笑っていてほしい』それが彼女が伝えたかったことでした。椿は泣いていました。別れの時に流せなかった涙を流せた。その時椿はようやく、自身を、そして過去を受け入れることができたのです。

やがて数年後、夢で出会ったカノンに対して椿はこう言うのです。「貴女に会えて、友達になれて……私は良かった」と。

 

1-2.高瀬梨緒と瀬戸友梨香

そして彼女は聖なる夢を見る | 音撃【魂のセカイ】

『魂のセカイ』では、莉玖と椿は一般の中学に通っていました。なので、梨緒は1年生の時は別の人とオンゲキのパートナーになっていた。その相手が、友梨香になります。莉玖と椿の性格を足して割ったような彼女とは、喧嘩しながらも良き相棒となっていた。しかしある日大喧嘩してしまい……仲直りもできないまま、友梨香は交通事故で亡くなってしまう。梨緒は後悔に苛まれ、自分が居なければ幸せだったのでは?と呪縛に苦しめられることになる。もう誰も犠牲になってほしくない、梨緒は孤高を貫くことになるのです。

高校2年生の春、梨緒は莉玖と椿に出会います。一度は別れようとした。しかしふたりは梨緒の過去を聞いてもなお、離れることはなかった。梨緒が(魂のセカイでの)セツナの策略にハメられて闇に堕ちた時だって、それぞれのやり方で必死で止めようとした。

アタシは鎌を椿に向ける。しかし、椿は攻撃をしてこない。黙って立っているままだ。その表情はどこか呆れているようで……悲しそうだった。
「梨緒……貴女は心からそんなことを言ってるの?それが梨緒の本心?心から力を望んでいたの?」
「……当たり前じゃない!」
大声で言うアタシに対して、椿はそう、とだけ言って目を瞑る。そして……こう言った。
「もう良いわ。私達より力に酔いしれている自分が好きなら、これからも孤独に生きていけば良いじゃないかしら?ね、"高瀬さん"?」

この時の椿は、莉玖と梨緒のおかげで過去を乗り越えている。ちなみにこの時点ではカノンのことはふたりには明かしていません。でも椿は思ったでしょう、梨緒と私は同じ境遇を経験していると。だからこそ、最後の冷酷な言葉は椿にとっても重く、椿だからこそ言える言葉。

また、この騒動で梨緒も気づくのです。相棒を失い、孤高に生きようとした自分には、友達が必要なのだと。

「アタシね、友梨香を失って悲しかった。こんな自分が嫌いだった。でも、莉玖と椿は受け入れてくれた。だから、アタシは……2人と一緒に強くなる」

大切なものが友達だと答える梨緒の覚悟と、後悔に縛られていた過去への決別。大切な友に『大好きだよ』と言えた時、梨緒はようやく前に進むことができた。やがて数年後、友梨香は梨緒にとんでもないイタズラをしかけるのです。また、大切な友に会う為に。

 

1-3.皇城セツナと天崎拓真

星屑の魔王 | オンゲキショートストーリーズ

家族がバラバラになったのち、セツナは海外のスクールに通うことになります。そこは、自分の為なら他人を蹴落とすのは当たり前の世界。そんな世界で、彼女は拓真に出会います。スクールで唯一の男子生徒にして、他人と好意的に接しようとする。セツナも最初は関わろうとはしなかった。しかし彼の夢に対する懸命さに、セツナは共感を覚えたのです。彼女自身、輝を夢見ていたのだから。やがてふたりは、同じ夢を追う友となっていく。

しかし、ふたりは残酷な世界によって引き裂かれることになります。スクールでの事件で濡れ衣を着せられ、虐待を受けることになる拓真。セツナが助けようとした時は、既に……。ふたりの悲しみを嘲笑う生徒会。セツナは悲しみ、怒り、憎んだ。やがてセツナは力に飲まれ、自らの正義すら歪んでしまうことになる。

 

2.表裏一体の望

椿と梨緒にあって、セツナにはなかったもの。それは、自身の苦しみや過去を受け止めてくれる友達の存在。そんな友が居た椿&梨緒と、嘲笑う者だらけの環境の中で復讐の為に生きてきたセツナ。だからこそ、『孤独に苛まれた者の成れの果て』というifの姿が生まれたのかなと思います。

ちなみに、闇セツナに関してですが、初期にはシュドレ姿になった時に堕天使のような翼が生える設定でした。「泥の分際~」の担当がセツナだった故。あとPVの子がセツナに似てた、色々と。

そんなセツナも最終的にはあかり達が受け入れてくれたから、ifの自分のようになることはなかった。何故か?セツナにも、他のふたりと同じところがあったから。3人の共通点としてあるのは、『友が遺した形見は絶望でもあり希望でもあった』ということ。

椿にとっての手紙

梨緒にとってのキーホルダー

セツナにとっての懐中時計

これらは、かつては自身を苦しめるものだった。でも過去を乗り越えたあとは、友がいた証となり、友との思い出となった。絶望と希望は、隣り合わせに存在していたんです。あと椿にとってはマフラーもかな……。

 

3.想い続ける限り

さて、絶望の中にいた3人はやがて過去を乗り越えることになります。なにが彼女達を救ったのか。それは恐らく、『亡き友の魂』ではないかと思います。

今回の話の拓真の言葉に、こんなのがあります。

「君から俺という存在が消えれば、俺は誰の記憶にも残らないまま死を迎える。そうすれば……『天崎拓真は完全に死ぬ』のだから」

このセリフの由来となったセリフがあります。

「人は2回死ぬって言われている。1回目は肉体が死んだ時。そして誰からの記憶に残らなくなった時……人は本当の意味で死ぬんだって。確かにカノンの肉体は、もうない。魂だけの存在。でも、椿お姉ちゃんがこうして覚えててくれて、会いたいって願ってくれた。だからまだ、魂は死んでいない」

        『魂の記憶』より

魂のセカイの本質を語る上でとても大切なセリフです。このお話の時でも言いましたが、『誰かが想い続ける限り、故人が死ぬことはない』――それがあの3人を救う為の一番の鍵だっだと思います。亡き友との思い出は、自身を酷く苦しめた。忘れたいと思った時もあった。でも本当は忘れたくなかった。忘れなかったから、彼女達の中で友の魂は生き続けた。そして最後には亡き友を受け入れ、共に歩み続ける。セカイは理不尽かもしれない。でも彼女達が思っている以上に、セカイは輝いているのだから。

セツナと拓真の物語のラストがメモリーチャプターの創立記念祭にするのはプロットの時点で決めていました。自身を受け入れてくれた仲間と共に見る光景、そしてかつて共に夢見た友と見た光景こそ……『切なくも暖かい物語』の終着点には相応しいと思いました。

輝かしい奏坂の未来を、見届けたいからな――そう言った彼女の表情は、きっと優しかったでしょう。

 

 

さて、オンゲキも5周年になりました。同時に、オンゲキ物書きとしても5年経ちました。色々ありましたが、その辺りの話は次回にて話しましょう。

今回はここまで、では。